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厳しい冬が過ぎ、街に桜が咲いた頃、お金がないと困っていた人がカウンセリングにやってきました。
「その後いかがですか?」
心なしか表情が明るいその人は、笑顔を浮かべながらカウンセラーに報告します。
「先生、あれから本や講座を整理したのですが、それから仕事の調子がいいんです。
大事な本や講座を手放すことで、前よりも仕事が出来なくなるかもしれないな、でもそれでもいいやと最初は思ってたのですが、
だんだん仕事での本番が一番の教科書だと思うようになりました。
私は色々なものに手を出して気持ちがフワフワ宙に浮いていたのかもしれません。
今まで色々なことに頭を使っていた分、それがなくなって本番に集中できるようになったので、お客様の要求がわかるようになってきました。
そうすると仕事で上手くいくようになって、職場でも上司や先輩に褒めてもらうことが多くなりました!
今度、今までより契約金額が多い案件の担当をすることになったんです。
先生、本当にお金じゃなかったんですね!」
「すごいですね!」
カウンセラーは話を聞きながら、この人の賢さが本来の姿で発揮されるようになった、と思いました。
今までは「どうしてこんなことも分からないんだ!」と父親に怒鳴られたことで、「何も分からない子」という幻想を入れられていた。
だから仕事で想定外のことが起こると、「何も分からない子」の心の傷が刺激されて、巨大な壁にぶつかったような絶望を感じ、乗り越えられなくなってしまう。
この巨大な壁、というのは無防備な子供にとって絶対に勝てない怒鳴る父親の象徴。
自分の身長よりもはるかに大きな壁を前にして、乗り越えられないと脳が判断し、無力感を感じてしまう。
そして大事な取引の最中に萎縮して信頼関係を築けずに契約を逃すことになる。
だから「稼げるようにならなきゃ」と本や講座など、自分の心の外側に過剰に答えを求めにいってしまう。
本や講座を買う瞬間は、「何も分からない子」という心の傷の痛みが麻痺するから。
でもそれが幻想だったと気づいた時、本や講座を手放すことができて、大事な取引の最中で想定外のことが起こっても落ち着いて対応できるようになる。
落ち着いて目の前に立ちはだかる自分よりも大きな壁を観察してみると、実は扉がついていたことに気づく。
宙に足を浮かせなくても、しっかりと地面を踏み締めて通り抜けられる扉が。
そして、「何も分からない子」が「どんなことにも対応できる人」へと変わる。
お父さんは、この人のこんな姿に嫉妬したんだろうなあ。
カウンセラーは目の前のクライアントにリスペクトの気持ちを感じ、頬が上がります。
「先生、それで、契約金額の多い案件なんですが、嬉しい反面足がすくみそうで。
この案件のことを考えると本や講座にまた課金してしまいそうなんです。
そしたら、また元の自分に戻るんじゃないかって不安で…。」
不安な顔を見せたその人に、カウンセラーは語りかけます。
「トラウマ治療は螺旋階段ですからね。
同じところをぐるぐるしているようで、確実に階段は登っていますから。
前よりも奥深くの痛みが出たと考えてもらっていいですよ。
そうやって少しずつお金のブロックを外していきましょう。」
「はい!」
その人は嬉しそうな顔をして、次はどんな痛みが私の中に眠っているのだろう、と楽しみになっていました。
(お金がない 終わり)
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