前回まで「人が怖い」という悩みを持った人のケースを見てきました。
「人が怖い」シリーズはこちらからご覧ください。
この人の場合、父親に怒鳴られたことが心の傷となって、成人後も人と話す時にその恐怖を再上演(※トラウマを繰り返すこと)し、人が怖いということがわかりました。
ここで注目したいのは、精神年齢の逆転が起きているということです。
父親は自らが祖父に怒鳴られて育った経験があり、人が怖く、誰にも自分のことなんて分かってもらえないと思っています。
「誰にも分かってもらえない」という色眼鏡をかけて世界を見た時、その目に映るのは子どもでさえも「分かってくれない」対象になるのです。
そして、父親の精神年齢が退行(子供返り)し、子どもは無防備なまま親の役割をさせられます。
つまり、怒鳴っている父親の方が強そうに見えて、子どもよりも精神年齢が幼くなっているのです。
父親は、自分より強かった祖父には自分の話をすることを許されませんでした。だから、自分より弱く無抵抗な子どもに対して感情が爆発してしまいます。
父親の怒鳴り声は、「どうか自分のことを理解してほしい」という、心の底からの叫び声なのです。
子どもという一点の曇りもない鏡を前に、自らの影が強く映し出されるとも言えるでしょう。
純粋で素直な子どもは、自らの鏡で映し出したものを自分の中に吸収していきます。
つまり、父親の「人が怖い」「自分の本心は話してはいけない」という恐怖やしがらみを自分の中に取り入れてしまうのです。
そして、その記憶は大人になっても繰り返し、職場で同じように「人が怖い」という恐怖を持った相手と対面すると、自分の影が相手の影を引き出してしまいます。
影が引き出された相手は高圧的になり、自分は体を踏ん張って耐えたり、頭が真っ白になって話が飛んだりすることになります。
そこで、恐怖を感じた時は「この恐怖は相手も同じだけのものを持っている」というふうに、恐怖の強さを感じながら相手と向き合っていると、相手の恐怖と自分の恐怖がお互いのものを打ち消し合い、そこに強弱の関係がなくなっていきます。
これは本当に面白い現象です。さっきまであった心の段差がなくなったような感覚になります。
「人が怖い」「私の本心は聞く価値がない」という色眼鏡を外した時、そこに広がる世界は、恐怖がなく対等に人と接することができる世界なのです。
<参考>
*精神年齢逆転について
精神科医 名越康文先生が解説するゲーム実況。『DETROIT』というゲームの中で、幼児虐待のシーンが出てきます。参考は20:42から3分ほど。クリックすると参考部分から始まりますが、面白いのでこのシリーズを最初から見るのもおすすめです。
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