収支が合わないのは心の傷だからということで、前回までお金を使い過ぎてしまう心の傷について解説しました。
今回は入ってくる方、つまり稼げないということについて解説します。
ケースの最後でも再度カウンセリングに来られたこの人は、お金の使い過ぎが収まった後、ずっとお金を使うことで麻痺させていた心の痛みを仕事中に自覚するようになりました。
父親の厳しい躾によってできた「何も分からない子」という心の傷です。
子供にとって「何も分からない」というのは自然なことですが、分からないことを一つずつ知っていく段階を踏ませてもらえなかった場合、
「分からない」ことが恥ずかしいこととなってしまい、それを乗り越えることができなくなってしまいます。
分からないことに囚われ、世間知らずな自分が周囲にバレることを恐れて仕事をすることが怖くなってしまうのです。
また、できないと思われることを恐れて必要以上に仕事を抱え込んでしまい、回らなくなり、仕事量に見合った報酬がもらえていない、と嘆くことにもなるかもしれません。
こうなれば、意欲的に仕事をしている人や自分のキャパシティの範囲内で仕事をしている人に比べ、過剰なエネルギーを使っているのに昇進できない、と悩む羽目になります。
これらの原因は、父親との関係の失敗にあります。
母親が子供を受容することで、子供は愛着を育んでいくようになります。
母親との関わりは人間関係、主に恋愛やパートナーシップの基盤になっています。
それに対して家庭における父親の役割は、社会に出るための強さを育むことです。
母親の愛だけでは、家庭から外に出ることができません。
父親が守ってくれるという安心感によって、子供は外に出ることができます。
ですがこの人のケースの場合、守ってくれるはずの父親が、まるで自分が父親の敵だと言わんばかりに攻撃されてきました。
こうなると、社会は安全な場所であるどころか自分を攻撃する敵ばかりという認識になってしまい、外に向かってエネルギーを使うことが恐怖でたまらなくなります。
仕事で他の人が落ち着いて対処できる場面であっても、些細なことで自分が攻撃されていると錯覚してしまい、乗り越えることが難しくなってしまいます。
初めて遭遇することが「分からない」ことは普通のことであっても、それを認識することが難しくなってしまうのです。
このように、父親との関係に挫折すると、経歴や職歴において挫折につながることがあります。
興味深いのは、この人は受験に失敗しているという点です。
勉強面では、父親と一緒に勉強する時間が苦痛だった。
2024-01-22ブログ – お金って、もしかしてダミー?より
受験生の時期に父親が期待する学校に受からなかった。父親の怒った顔と、母親のがっかりした顔が忘れられない。
岡田尊司先生の『死に至る病 あなたを蝕む愛着障害の脅威』では、「数学不安」という言葉が紹介されています。(ブログの最後にURLを記載)
数学は不安によって不得意になることがあるということです。
数学の問題を解くときは、単純な作業をするのとは違って、メンタルな要素が強まる。
解けるかどうかわからない問題を、解けると信じて解き続け、ついに正解にたどり着くためには、解けないかもしれないという「数学不安」に負けない精神的な強さや、自信が必要になるのだ。
岡田尊司先生著『死に至る病 あなたを蝕む愛着障害の脅威』p.72より
そして、その不安によって人生が左右される場合があるのです。
この数学不安は、単に数学が得意か苦手かということだけでなく、就職や職業における成功を左右するという。(中略)
最近の研究で、この数学不安が、愛着安定性と関係していることが明らかとなった。(中略)
愛着の安定性が数学の成績に関与する割合は、およそ二割だという。しかし、二割も違えば、試験の合否も、その後の人生も大きく変わることになる。
岡田尊司先生著『死に至る病 あなたを蝕む愛着障害の脅威』p.73より
父親の厳しい教育によって不安に負けない精神的な強さを身につけられなかったこの人は、不安を抱いたまま入試を迎えたり、仕事をしたりすることになってしまいました。
ですが、この人がずっと苦しんできた原因は、無知な自分自身ではなく、父親との関係の失敗だったのです。
つまり本当は、困難を打破するための能力があるのです。
本当の原因は自分自身ではなかったと気づいた時、落ち着いて周りをみることができるようになり、少しずつ対応能力がついていきます。
そうすると、今まで出来なかったような仕事ができるようになり、自分のキャパに応じた仕事量で充分な報酬をいただけるようになって、稼げる自分に変わっていくのかもしれません。
(お金がない 解説/終わり)
<参考>
ブログでご紹介した岡田尊司先生の『死に至る病 あなたを蝕む愛着障害の脅威』です。
なお、本文の中では数学不安の原因が父親との愛着に限定されていなかったことを補足いたします。
父親との愛着に関して、詳しくは『父という病』がおすすめです。
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